こけら板とは
あえて手割りによって作られる「こけら板」には
木材を使用することの叡智が結集されている
大割包丁によるみかん割り
こけら板とは
杮葺(こけらぶき)に使用される杮板は、油分や粘りがあり、木目の通った耐水性のある椹(サワラ)や杉、栗などの大径木を輪切りにした赤身材から柾目の薄板を小割りしたものです。これらの木は樹齢200年から300年生の天然木が使用され、サワラに限って言えば木曽産の天然サワラが一番良いとされています。
椹(サワラ)は木曽地域の特産で昔から、風呂桶や樽など、水回りに使用されてきた木材です。木理は直通で、柔軟性と弾力性に富み、加工性が高い事から、これまで大変重宝されてきました。現在は環境保護と天然資源の維持保存のため、出材は減少傾向ですが、産出される木材は美しく、世界一と言っても過言ではありません。
杮板(こけらいた)を製作するもっとも一般的な工法は、岐阜、木曽の中部地域を中心に京阪神に及ぶ「三州流」と呼ばれるものです。原木を材寸法に合わせて玉切り(輪切り)し、大割包丁を使ってみかん割りにします。次に寸法定規を用いておもに1寸6分に小割りし、そば取り、小口削りを行ったのち、8分、4分、2分、1分と順次2分割を繰り返し、板を製作していきます。
木材加工機械が発達した今日においては、手割板同様の製品を加工することは可能です。しかし、手割板の最大の違いは、手足の感覚により、木の目 (繊維方向)を見ながらへいでいくため、木材の繊維を切断していないことです。また製材品のように表面を仕上げないため、板の表面に微妙な凹凸が残りま す。1寸という細かな葺足で重ねられた板は、竹釘により密着し、完成後、雨水が毛細管現象により吸い込まれます。
手作業で板を割る(へぐ)ことで生まれる「こけら板」
杮板に使用される材料について
天然サワラ 一般的な杉材
木材の良し悪しを語るときによく「目が細かい」「目が粗い」などと言います。
一般的に目の細かい材料は強度もあり、材質的にも優れていると言われ、値段も高くなります。
杮板に使われる木曽産の椹(さわら)は樹齢250年から300年。年輪も緻密で、木理直通、さらに柔らかい材質から非常に加工性が高い木材です。社寺建築の屋根は緩やかな曲線が特徴的で、こういった屋根形状に合った優れた木材だと言えます。
ここで年輪についてお話しします。日本のように四季がある地域で育つ樹木は季節によって肥大成長する度合いが異なり、時期によって性質の違った層(年輪)ができます。
年輪は成長が始まる春から夏にかけてできる軽軟で淡い色をした部分(早材「そうざい」)と秋にできる重硬で色の濃い部分(晩材「ばんざい」)によって形成されます。
木材は密度が高いほど強くなる傾向があるので、一年輪の中でも実質量が多く、密度が高い秋にできた重硬で色の濃い部分は、空隙の割合が多く、密度が低い春から夏にかけてできた軽軟で淡い色をした部分よりも強いというわけです。
つまり年輪が緻密であればあるほど木材は強くなるということです。
早材は春から夏にかけて形成されますので、温暖な気 候の地域では木材も一気に成長し、早材部も大きくなります。これが「これが目の粗い材」のできる仕組みです。実際、同じ椹のきでも静岡で取れたものと木曽で取れたものには明らかな違いがみられます。
夏でも冷涼な気候と、冬の厳しい寒さが、世界に誇る秀逸な材を生み出したのですね。
冬の寒さは堪えます。でもこの寒さのおかげで素晴らしい木が出来がっていくと考えたら、少し心が温かくなりました。
材の表面を仕上げた状態だとこの水分が抜けず、腐食を早めます。これに対し、手割の板には細かな隙間ができるため、排水と換気が促進され、屋根の耐久性を高 めるのです。伝統技術だから残されてきたのではなく、そこには木材を使用する事の叡智が結集され、工法的にも完成された技術と言ってよいでしょう。
また、杮板を製作する方法は、平成23年9月に「屋根板製作」として国選定保存技術にも認定され、文化財を支える技術としてその保護が図られ、伝承者の養成にも力を入れています。
先人たちの残してくれた貴重な森林資源を最大限に生かすのは、次代を担う我々職人です。木を使う事は「きづかい」。板を割ることは「いたわり」。森林(もり)と技術(わざ)に真摯に向き合うことが求められています。
樹齢200年から300年生の天然木が使用される
一枚一枚手作業でうまれた「こけら板」は、屋根葺き職人へと引き継がれる