井の中の蛙 大海を知らず
「屋根板製作」は後世に伝えるべき大切な技として、国選定保存技術に認定されている。
製作される「屋根板」は全国の重要文化財建造物に納入され、大切な財産である建物を守っている。
しかしながら、我々の技術は製作に特化したものであり、屋根工事の完成までを遂行することは出来ない。
これをもって、私達の「技」は「未完成の技」という方がいらっしゃるが、屋根工事全体で考えればその通りであるし、元来は材の調達から加工、そして施工までを一貫して行っていた。
この会社は木曽の地で創業してから100年以上の歳月が経つ。
それより前は、屋根職人として様々な地域で活動していたようだ。
ここに移ってきたのは木曽の良材「天然サワラ」を追いかけての事。
以来長きにわたり、サワラという木材と向き合ってきた。
もちろん、社寺等の建造物の保存修理に携わりながら。
先ほどの話、我々の技術を「未完」と考えれば、
屋根板製作を「井の中の蛙」とし、杮葺屋根の完成が「大海」となるのであろうか。
我々にはあの美しい屋根を葺くことはできない。
頭ではわかっていても、それに熟知した職人には到底かなわない。
しかし、私達には100年以上もの間、木に向き合ってきた経験がある。
この目利きに関しては、誰にも負けない。
未完成であるからこそ、我々にしかできないこと、これを必死に追い求め、
磨き上げてきたのだと思う。
この歴史のバトンを私は受け取った。
「井の中の蛙 大海を知らず」されど「井を知る」
私が生きる道は、ここにあると思う。