伝えたいこと、伝わること
平成23年9月、弊社職人の栗山光博が「屋根板製作」の国選定保存技術保持者に認定され、
俄かに我々の仕事が脚光を浴び、取材を受けることも多くなった。
会社としても採用活動や、地域貢献活動に向けて積極的に動いていたこともあり、会社見学や
実演の依頼、講演活動も頻繁に受け入れるようになった。
つい先日もTV局の取材や求人情報誌のインタビューを受けたが、
総じて我々に向けられる興味は
「貴重な伝統技術、文化財建造物に携わっていることのすごさ、職人としての誇り…」
これらに対する質問が相次いで、私たちもきっと相手が望むような回答を行ってきた。
どこか天然記念物のような取扱いだと感じることもある。
もちろん、取り上げて頂くことは非常にありがたいことである。
誰も見向きもしなかった仕事。地元でもほとんど知られていなかった会社の業務内容。
オープンになっていく事で、若手社員も増え、認知度もあがり、会社のステータスは
向上したかもしれない。
ただ、本当に伝えなければならないことは何か?何を伝えていきたいのか?
この疑問が日に日に大きくなり、自問自答を繰り返すようになった。
文化財に携わっているからすごいのか?伝統技術だから守らなければならないのか?
我々の仕事は古来から変わることなく継承されてきている。
森林資源の豊富な日本は、建造物はもちろん、屋根材に関しても木材を利用してきた。
木曽地域は全国でも有数の木材生産地であったので、なおさらである。
身近にあった材料を巧みに加工し、理にかなった方法で施工し、修繕を繰り返しながら
脈々と伝えられてきているのである。
先人たちには伝統技術や文化財を守る、などという観点はなかったはずで、木と真摯に向き合い、
自分たちが作ったものがしっかりと残っていくよう願って取り組んでいたはずである。
長い年月の中で社会も変わり、価値観も多様化する中で、こういった昔ながらの技法が希少なものとなり、「文化財の保護」「伝統技術の継承」というキーワードが生まれてきたのだと思う。
そう考えると私たちの仕事は、今でさえ「守るべき伝統技術」などと言われるが、屋根を木材で施工するために必然的に生まれた技術と言える。
先人たちが苦労しながら築き上げた技。そこには守るべき想いがある。
当たり前のことを当たり前に、しっかりと取り組んでいるものが、結果的に文化財建造物に使用され、伝統技術の継承になっているのではなかろうか。
私たちだけ特別なわけではありません。
何を伝えるべきなのか?
今後も木と向き合いながら考え続けていくことになるでしょう。
そう、「板を割ることは、いたわり」「木を使うことは気遣い」