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その顔に見覚えあり


屋根修理工事の解体現場に立ち会うことがあります。

解体というと全部壊してしまいそうですが、古い材を確認しながら捲っていく「取り解き」と呼ばれる作業です。


先代の社長、私の父ですが、よく現場で板を見ながら

「これはあそこの山の木だな」と言っていました。

そばで聞きながら「ん?そんなことわかるわけないのに、なに言ってるの?」

正直疑っていました。


父から仕事を継ぎ、原木の仕入れから材の選別までを自分一人でやるようになって10数年。

同じように現場で取り解かれた板を見ると、「おー。これはあそこの山の木だ…」

そうです。なんとなく分かるようになってきていたのです!


木は育った環境によって微妙に表情を変えます。

暖かい地方で育った木は寒い地域に比べて年輪幅が広くなることは皆さんご存じかと思いますが、

同じ木曽の地で育っても育つ山によって、目合い、色合い、形などに違いが出ます。


丸太の切り口を「顔」と呼んでいます。

一見すると同じように見えますが、同じ山でも同じ顔は二つとありません。


さらにこれを板に加工していきますので、この割り肌と「顔」が一つの木として記憶されていくんですね。

これまで何本の木を触ってきたでしょうか?

創業から100年以上にわたって天然サワラを扱い続けてきた会社には、これらの木の「記憶」が財産として

蓄積されています。


技術を受け継いでいくことも大切ですが、こういった目に見えない「記憶」をしっかりと残していくことも

私たちの大切な仕事。


木曽の豊かな自然に感謝しながら、今日も若手技術者とともに木と向き合っています。

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